【ショート・ショート】動かないブランコ

 動かないブランコがある。青色だったはずの鉄柱はペンキが錆びており、黄色だったはずの台も同様にほとんどペンキが剥げている。そこに白いワンピースを着た少女が不器用そうに座っている。少女は誰かを待っているのか、ブランコと一体化したかのように動かない。

 私は夕食の買い物に行くため街路を歩きながら、公園を通り過ぎるまで横目で少女とブランコを眺め続けている。隣にはちゃんと動くブランコがあるのに、と思いながら。

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【書評】小野美由紀/メゾン刻の湯

メゾン刻の湯|小説・文芸|本を探す|ポプラ社

 

 雑多な人々がひとときのあいだ寝食を共にするシェアハウスでは、人間関係の様、あるいはそこを利用する形態もまた雑多である。コミュニケーションを求めてそこへやってくる人、生活のためだけに一時的にそこを利用する人、そして、密なコミュニケーションなしに両者の間を行き来する人。更には、姿さえ露わにしない人々もいる。余程、関係性が密にならない限り、住人同士が双方の内面に深く踏み込んだコミュニケーションは交わされない。ここでは、上記の「密なコミュニケーションなしに両者を行き来する人」を少々取り上げてみたい。

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【エッセイ】男性の突起物について

 アウシュヴィッツガス室へ全裸で連れ込まれるユダヤ人男性たちの写真を評して、男性の突起物というのは物哀しさを誘う、と書いたのは誰だっただろうか。誰が書いたどの本だったかは忘れてしまったが、その文章を読んで以来、私は男性の突起物が引き起こす様々な悲喜劇に、時々、思いを馳せるようになった。言うまでもなく、男性の突起物は生殖器としての機能が遺伝的に付与されており、その限りにおいては、他の動植物の雄と何ら変わりがない。人間の男性もまた、本能によって女性との生殖行為に励むのであり、より優れた子孫を残すために、あの奇妙な突起物が備えられている。

 しかしながら、人間の男性には社会的な規範、つまり、善悪や真偽を判断する理性が植え付けられており、おそらく、この理性こそが、男性の突起物に纏わる様々な悲喜劇の源なのだろうと思う。男性の突起物は(以下、人間という呼称は省く)、その人自身の意思決定でコントロールすることができない。ポール・オースターは『写字室の旅』において、男性自身の意思に反するその突起物を、ビッグ・ショットと揶揄的に表現している。ビッグかスモールかはともかくとして、まるでアルコール中毒者がテキーラのショットを何杯飲んでも止められないように、男性の突起物もまたその人自身の意思で海綿体の充血を止めることができない。

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【詩】白いおばあさんの歌

今日という日の、なんと昏かったこ

明日という日の、なんと薄明がかった蒼きこと

昨日という日の、なんと眩かったこ

ぼくはいったいどの時に在ったことだろう

 

もうよそう、未来礼賛のぼくたちよ

まるで異国の街娼らのため息のように

未来は遙か遠く、ぼくの記憶のうちに既に在って

過去は遠く及び、ぼくの記憶のうちから消え去っていく 

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【詩】黒い通勤者

窓外の空が薄いオレンジ色に変わりはじめる頃、

僕たちは、連なって吊り革をつかむ、黒い通勤者。

一瞬、橋の上に、携帯電話のカメラを空に向けた少女が過ぎり、

黒い通勤者たちと同じように、僕も四角い空を見上げる。

西の果てに沈んでいく途上に、空より濃いオレンジ色のマル。

しばらくすると、電車の轟音とともに、それも過ぎ去っていき、

あの少女はとっくに消えてしまったというのに。

少女のスカートは何色だっただろう、

君も見ただろうか、今このとき、失われてしまった多くのものたちを。

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【告知】読むCafeにて掲載していただきました

読むカフェにて拙文を掲載していただきました。

【書評】早川タダノリ/『「日本スゴイ」のディストピア』 | 幻冬舎ルネッサンス運営 読むCafe

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【告知】読むCafeにて掲載していただきました

読むCafeにて拙文を掲載していただきました。

【書評】フェルディナント・フォン・シーラッハ短篇小説「チェロ」 | 幻冬舎ルネッサンス運営 読むCafe

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