ショート・ショート

【ショート・ショート】ミニチュアダックスフンド

私は近所のペットショップで一目惚れし、生涯のパートナーにすることを決めたミニチュアダックスフンドの雌を胸に抱きかかえて通路を歩いている。リリー、マンションへ帰ったらおやつが待っているよ、と顔中を撫で回しながら、エレベーターを上昇していく。…

【ショート・ショート】孤独な宇宙遊泳

新幹線が広島駅に到着する直前、私は異変に気づき、読んでいたN・コールダーの『アインシュタインの宇宙』を閉じる。私は東京行き上りの指定席、四号車の窓際に座り、車両の前方から中程までが順々に宙に浮かんでいくのを見ている。宙に浮いた車両は右側にく…

【ショート・ショート】色彩のない世界で

私は透明になったような心地で、古ぼけた飲食店の白いテラスにひとり座っている。通りを行き交う雑多な人たちを眺めながら、遠くまで来たのだな、とひとり言をいう。青い道路標識の漢字表記や人々の話し声から、おそらく、ここは私の故郷ではないのだろう。…

【ショート・ショート】メリーゴーランド

私は丘の上にある緑の草原に寝転んでいる。ときどき、空色を真似た青い風が、緑の匂いをたっぷりと私の鼻孔に届けてくれる。その匂いをすうっと嗅ぐたびに、浅い眠りに誘われたような白昼夢が、まるで青草を反芻する草食動物たちのように、私に届けられる。…

【ショート・ショート】カプチーノの苦味

ビルの二階にあるカフェ店内の窓から見上げる灰色の空は、今にも雨が降り出しそうな予感を漂わせている。ランチタイムを外れているため、店内には私ひとりしかいない。アンティークな家具を出鱈目に並べながらも、不思議な統一感で優しい雰囲気を醸し出して…

【ショート・ショート】小人になった男

私は小人になった男がテーブルの上を歩き回るのを見ている。小人になった男は煙草のフィルターほどになった足をばたばたと動かしながら、私が耳を凝らしてようやっと聞き取れるような極小さな声で何か喚き立てている。小人になった男はおそらく賭けに負けて…