【詩】白いおばあさんの歌

今日という日の、なんと昏かったこと 明日という日の、なんと薄明がかった蒼きこと 昨日という日の、なんと眩かったこと ぼくはいったいどの時に在ったことだろう もうよそう、未来礼賛のぼくたちよ まるで異国の街娼らのため息のように 未来は遙か遠く、ぼ…

【詩】黒い通勤者

窓外の空が薄いオレンジ色に変わりはじめる頃、 僕たちは、連なって吊り革をつかむ、黒い通勤者。 一瞬、橋の上に、携帯電話のカメラを空に向けた少女が過ぎり、 黒い通勤者たちと同じように、僕も四角い空を見上げる。 西の果てに沈んでいく途上に、空より…

【即興詩】水平線のあっち側

水平線のあっち側に果てがあると信じていた頃、 僕の意識はまだ海とおなじで、波間をゆったりと泳ぎながら、 しきりに砂浜の両親を振り返る。 クロールであっち側の果てまで泳いでいけると、 僕の身体、意識、太陽、それら全部が海だった。 やがて、海の底に…

【詩】ウシガエル君

幼少の頃、僕は友人たちが牛蛙の肛門に爆竹を挿入して点火するのを見ていた。誰かが点火した後、導火線を火が伝っていく。その時間は、僕の話し声が僕の耳に伝わる、マ、ほどにもどかしい。ようやく、牛蛙は破裂したけれど、僕はその瞬間を目撃し損なってい…

【詩】◯の音

遠くインドの広場では、シタールの風にあわせてタブラ奏者の手が機械へとその傍では恋人たちが踊り出し、彼の視線の先には恋焦がれる透明なあの娘の姿がタンタン、タタタタ、タンタン、タ◯タタタタタタ、タタッタ、タタ◯タ、タンタン◯はタブラ奏者の魔法の打…

【詩】春への決別の歌

私には聴こえる、カーテンを閉めきったこの陰鬱な部屋で 冬の冷気が依然まだ残る、湿っぽいこの部屋で 春の訪れが予感のように歌ってらっしゃる おいでよ、おいでよ、おまえさん 私は窓際に立ち、そっとカーテンを開けてみる なるほど、太陽はまだ低く、冬露…

【詩】世界の終わりにて

思い出の中を辿るのはよして 世界が終わってしまったんだ 思い出の中を辿るのはなぜ それは、あらゆるものを秘めていた 草叢を掻き分けて、誰よりも早く川に足を浸した 浅瀬に体を仰向けて、緩やかな流れに身を任せる 真上に燦然とある真夏の太陽と青空、そ…

【詩】とある路上にて

夜明け前の鈍い意識をもってして 光と影が織り成す不調和に魅せられて いつまでも見ていても仕方がないから 路上に眠り込んでる女を起こしてやったんだ ゆすってもゆすっても 女はうんともすんとも言わない 深い眠りなんだろうさ そこが女の棲家ででもあるか…

【詩】カタストロフ

ビルとビルとの間で切り取られたような 一瞬を切り取った写真のような人間が識別できる範囲において青の入り混じった黒い空が告げるのは、ほら、方々に散り始め各々の偽りの姿へと帰っていく街娼たちのあの夜の中においてのみ輝くことのできる不思議な秘密の…