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【エッセー】河ちゃんのこと

その売人は河ちゃんと呼ばれていた。金髪に染めた短い髪をツンと立たせ、ブルーハーツの曲をよく口ずさむことからおそらくはそのあだ名がついたのだと思う。河ちゃんはタクシードライバーでもあり、実際にそのタクシー内では常にブルーハーツの1001のバイオ…

【書評】異人娼館の怪異/檀原照和

檀原照和氏の少々面白可笑しく、そして、少々妖しいこのノンフィクションを読んで、まず私が思い浮かべたのは、2005年に行われた通称「バイバイ作戦」、つまり、あの黄金町ちょんの間一掃の様子である。当時の私は黄金町に程近い若葉町という少々危ない場所…

【エッセー】ポーの詩集を日本語で読む中国人女性

伊勢佐木町の隣の通りにある若葉町という町に住んでいた頃、友人の中国人女性である海晴がマッサージ店の呼び込みの仕事をしていたから、私は深夜によく長者町の通りのガードレールに座ってポーの詩集を読んでいた。詩集を読むのに飽きると、手持ち無沙汰に…

【エッセー】タクシードライバー

伊勢佐木町でぶらぶらと遊んで暮らしていた頃、桜木町にあった飲み屋によく通った。伊勢佐木町から桜木町までは歩いて数分の距離であり、散歩にはうってつけなのだが、その頃の私は馬鹿みたいにタクシーを利用していて、また、タクシーに乗るのが好きだった…

【ノート】幻聴のこと

以前書いたふたつの雑記をまとめました。 幻聴は内的発話の変形であるから他者に伝達することができない。普通、内的発話においては「~と自分は思った」となるのが、幻聴においては「~が~と言った」となる。そうなると、他者に伝達するためには「~が」の…

【音楽】真島昌利 - チェインギャング

チェインギャング - YouTube THE BLUE HEARTSのギタリスト、真島昌利のソロに「チェインギャング」という素晴らしい曲があるのはファンなら誰でも知っていることだろう。この曲の歌詞に以下のような一節がある。 生きているっていうことはカッコ悪いかもしれ…

【ショート・ショート】小人になった男

私は小人になった男がテーブルの上を歩き回るのを見ている。小人になった男は煙草のフィルターほどになった足をばたばたと動かしながら、私が耳を凝らしてようやっと聞き取れるような極小さな声で何か喚き立てている。小人になった男はおそらく賭けに負けて…

【書評】トニオ・クレエゲル/トオマス・マン

トオマス・マンのそう長くはないこの小説の中には、一人の人間が如何に文学を志すようになり、文学を志す人間が如何にそうではない人間と相まみえないか、しかし、どれほど平凡に生きることに憧れそれらを愛しているか、つまり、如何に俗人であるかがすべて…

【エッセー】大津島(馬島)と高松工さんのこと

瀬戸内海というのは本州と四国に挟まれた内海であり、言い方を換えるならば、四国によって太平洋へと開かれることを阻害された内海であるとも言える。もっと言えば、本州と呼ばれる離島と四国と呼ばれる離島に挟まれた内海であると言うこともできるかもしれ…

【書評】再起動せよと雑誌はいう/仲俣暁生

始めに断っておくが、私は本書が想定するところの問題に関して決して本書の良き読者ではない。現時点で定期的に購読している雑誌は皆無だし、雑誌の流通全盛期だった80年代から90年代半ばについても雑誌の虜というわけではなかった。思春期あたりでは音楽雑…

2011年2月24日、九州電書会にて

【挨拶】 今日は九州電書会にお招きいただき、とても光栄に思っております。僕のような若輩者の無名物書きがこうやって喋ることに多少違和感がありまして、今日何を話そうかと考えていたのですが、僕は全くの無名物書きですし、知識もろくになくて本当に何も…

【詩】春への決別の歌

私には聴こえる、カーテンを閉めきったこの陰鬱な部屋で 冬の冷気が依然まだ残る、湿っぽいこの部屋で 春の訪れが予感のように歌ってらっしゃる おいでよ、おいでよ、おまえさん 私は窓際に立ち、そっとカーテンを開けてみる なるほど、太陽はまだ低く、冬露…

【エッセー】ジャッキーのこと

昔、横浜の伊勢佐木町に住んでいた頃、皆からジャッキーと呼ばれている中国人の知り合いがいた。その男は眼鏡をかけて頭を綺麗に剃り上げていたからジャッキーというあだ名がジャッキー・チェンに由来するものでないことは確かであった。私は彼の本名も生い…

【音楽】中島みゆき - 断崖~親愛なる者へ 02

断崖-親愛なる者へ- 中島みゆき J-Pop ¥250 provided courtesy of iTunes 中島みゆきの「断崖-親愛なる者へ」は、一見、人生における普遍的な寂しさのようなものを歌っているかに思えるが、その歌詞を丹念に読めば、実はひとりの相手に呼びかけているメッセ…

【詩】世界の終わりにて

思い出の中を辿るのはよして 世界が終わってしまったんだ 思い出の中を辿るのはなぜ それは、あらゆるものを秘めていた 草叢を掻き分けて、誰よりも早く川に足を浸した 浅瀬に体を仰向けて、緩やかな流れに身を任せる 真上に燦然とある真夏の太陽と青空、そ…

【詩】とある路上にて

夜明け前の鈍い意識をもってして 光と影が織り成す不調和に魅せられて いつまでも見ていても仕方がないから 路上に眠り込んでる女を起こしてやったんだ ゆすってもゆすっても 女はうんともすんとも言わない 深い眠りなんだろうさ そこが女の棲家ででもあるか…

【詩】カタストロフ

ビルとビルとの間で切り取られたような 一瞬を切り取った写真のような人間が識別できる範囲において青の入り混じった黒い空が告げるのは、ほら、方々に散り始め各々の偽りの姿へと帰っていく街娼たちのあの夜の中においてのみ輝くことのできる不思議な秘密の…

【自著紹介】伊勢佐木町ブルース

Kindleストアにて拙著「伊勢佐木町ブルース」を出版しました。この小説は去年の夏頃に断片的なものを書き、去年の暮れになんとか小説の体を作りあげたのでした。伊勢佐木町という街が持つ歴史的な、人種的な混沌と、男女の虚構的関係が主なモチーフとなって…

【音楽】中島みゆき - 断崖~親愛なる者へ 01

中島みゆきの「断崖-親愛なる者へ」のサビの部分に そうさ 死んでも春の服を着るよ そうさ 寒いとみんな逃げてしまうものね という箇所がある。

【雑記】伊勢佐木町のこと01

僕は引っ越しばかりしていた人間で、これまで関東地方においてあちこちに住んできたものだけど、もう一度住みたい街は何処かと問われると、即答で伊勢佐木町となる。伊勢佐木町という街に魅せられた人間は多いと思うが、僕は伊勢佐木町の人種的混沌に魅せら…

【ノート】逃走=闘争論(仮名)のための草稿、ノート03

記憶という呪縛から解き放たれることなどあるのだろうか。病に陥ることなく、また、麻薬による一時的な健忘を利用するのでもなく。睡眠はダメだ。睡眠は夢という形で、しかも一方的に、自分に記憶を提示する。今この自分を司っているのは明らかに過去の過程…

【雑記】3.11のこと

東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故が起こって以来、ずっと思い続けているのは、日本という国は面積的に大きな国だったんだなということ。僕は3.11を西日本の最西端で「経験」したのだけど、不謹慎を覚悟でいえば、それは外国で起きた災害と大差がな…

【雑記】幻聴のこと02

幻聴においては「至る所に私」がいる。他者に伝達不可能な、様々な内的発話、それらすべてが「至る所の私」である。精神科医はそれら多数の内的発話を、「至る所の私」を、「私」という人工的なひとつの分裂症患者に仕立て上げる。ドゥルーズが『アンチ・オ…

【雑記】幻聴のこと01

幻聴は内的発話の変形であるから他者に伝達することができない。普通、内的発話においては「~と自分は思った」となるのが、幻聴においては「~が~と言った」となる。そうなると、他者に伝達するためには「~が」の部分の担保が必要となる。内的発話におけ…

【エッセー】恋愛感情のこと

一般的に、男は気に入った女性が身近にいるとなんとか手段を尽くして自分に好意を持ってもらおうとする。これが上手くいくと、いわゆる恋人同士ということになるわけだが、人と人との関係というのはそれほど単純ではないから、大抵の場合、男のアプローチは…

【雑記】酔っぱらいの朝にて

ブラックニッカの小瓶に直に口をつけて一人ちびちびとやっていたらこんな時間になってしまった。ヘッドフォンを耳にあてて「Led Zeppelin Ⅱ」をオートリピートで聴いていた。ずっと聴いていた。ジミー・ペイジのギターは人をアホにする。あれは麻薬だ。終わ…

【エッセー】広島のこと

広島の夏は暑い。京都のような盆地の暑さではないが、市街地が海に面していないので独特の暑さがあるのだ。高校を中退した後、山陽本線の列車に乗って広島までよく一人で行ったものだ。何をするともなく、ただひたすら広島の街を歩き回った。歩くのに疲れる…

【エッセー】中国人の女

もう随分前の話になるが、その夜、十年来の友人である中国人女性が経営するパブに招かれて、長居し、ウィスキーのボトルを一本空けた。店は恐らく前身のキャバクラを改装したのであろう、煌びやか過ぎず、暗澹過ぎず、日本によくあるタイプの安価なパブとい…

【ノート】逃走=闘争論(仮名)のための草稿、ノート02

この我々の宇宙が仮に無限だとする。つまり、ビックバン時のエネルギーが無限に時空(時間と空間)を押し広げていき(膨張)、永遠に縮小しないイメージ。もちろん、無限をイメージすることなど不可能である。よって、この我々の宇宙が無限である可能性を一…

【ノート】逃走=闘争論(仮名)のための草稿、ノート01

あるひとつの場所に馴染むと、その途端、その場所が窮屈で嫌になってしまう。この傾向はもう中学生くらいの昔から自覚があり、これまでの人生において、私はさまざまな場所、あるいは、関係性から逃げてきた。それは、あるときには学校組織であったし、ある…

【音楽】アン・ルイス - グッド・バイ・マイ・ラブ

アン・ルイス グッド・バイ・マイ・ラブ - YouTube 「グッバイ・マイ・ラブ」は前川麻子さん主演の「愛のゆくえ(仮)」を観に行った際(初めて前川麻子さんともお会いした)、本当に失礼ながら居眠りしながらもおぼろげに憶えているカットで流れていた曲。…

【エッセー】季節はずれの雪から

三月も下旬を迎えていたその日、とある書類をプリントアウトするため立ち寄ったネットカフェを出ると、季節はずれの雪が舞っていた。思わぬハプニングに私は驚き、咄嗟に空を見上げた。横浜駅西口界隈の賑やかなネオンに映えた白い粉雪は、音を立てず、しか…