【音楽】中島みゆき - 断崖~親愛なる者へ 02
中島みゆきの「断崖-親愛なる者へ」は、一見、人生における普遍的な寂しさのようなものを歌っているかに思えるが、その歌詞を丹念に読めば、実はひとりの相手に呼びかけているメッセージ・ソングであることが分かる。
そうさ 死んでも春の服を着るよ
そうさ 寒いとみんな逃げてしまうものね
この曲を人生における普遍的な寂しさのようなものとして聴く者は、おそらく、上記引用歌詞で歌われる二人称複数の指示語である「みんな」に着目するからであろう。もちろん、この部分だけを普通に読めばそうなる。しかし、下記引用歌詞に着目してみるとどうだろう。
生きてゆけよと 扉の外で
手を振りながら 呼んでる声が聞こえる
死んでしまえと ののしっておくれ
窓の中 笑い出す声を 聞かすくらいなら、ねぇ、おまえだけは
ここで「死」という深淵を覗く箇所において、一人称の指示語である「おまえ」という言葉が使われる。この言葉が出てくるのは一回だけである。断崖に立ち、あらゆる者たちから突き離され、生死に迷う人間が、唯一、呼びかけた相手である「おまえ」。それこそが「親愛なる者」であり、この曲を究極のラブ・ソングに仕立て上げている言葉である。