【即興詩】水平線のあっち側

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水平線のあっち側に果てがあると信じていた頃、
僕の意識はまだ海とおなじで、波間をゆったりと泳ぎながら、
しきりに砂浜の両親を振り返る。
クロールであっち側の果てまで泳いでいけると、
僕の身体、意識、太陽、それら全部が海だった。
やがて、海の底に脚が届かなくなったとき、
振り返った砂浜はもうさっきとは違う風景で。
結局、僕は水平線のあっち側の果てを知ることはできなかった。
そうして、今、僕は海を眺めている。
変わったのは、海ではなかった。
沖合いに停泊しているタンカー船、彼ら船乗りたちが、水平線のあっち側に消えていくのを知っている今、僕は昔日、振り返った砂浜が違う風景であったこと、その意味の知とともに、海と訣別した。
まるで、母胎との永遠の別離のように。