【エッセイ】2016年、参議院選挙投票日の憂鬱

 参議院選挙の投票日にこんな文章を書くのもなんだか憂鬱だが、もっと憂鬱なのは、冒頭から夢も希望もないことを書かざるを得ないことだ。

 今回の参議院選挙で与党、現政権が圧勝するのは誰もが知っている。そして、その圧勝するであろう現政権の内閣総理大臣である安倍晋三首相は、経済政策としては「アベノミクス」というデフレ脱却を推進する実体経済を伴わない造語を連呼しながら果てしのない夢をみていて、どうせいつか改憲するであろう憲法草案は日米安保の観点からだけを考慮すると、彼が提唱する「戦後レジームからの脱却」どころか「戦後レジームの強化」だ。今回の参議院選挙の主な争点となっている増税と再分配、高齢者福祉の充実、年金問題、そして様々な格差是正については、与党のみならず共闘を掲げる野党も似たり寄ったりである。

 では、私たちは各政党が掲げる公約のどこをどう読んで、どの政党に投票するべきだろうか。もちろん、誰もが自分の推す政党に投票すればいい。そもそも選挙に行かないという選択もある。それを前提に少し御託を述べるが、まず、安倍晋三首相は相当に小賢しくて狡猾であることを忘れてはならない。あれほど騒がれた安保法制と改憲を選挙の最大の争点にせず、増税を先送りしておいて、これまで日本を支えてきた高齢者の年金を引き下げている。これらが意味することを掘り下げてみると、投票率の多くを占めるであろう高齢者の関心を年金問題に向けておいて、二度目の東京オリンピックとリニア構想をセットにしながら、過去の東京オリンピックと新幹線の再現という幻想を見せつけ、彼らのノスタルジーを擽っているように思われる。更に、地方の高齢者が預金を貯め込んでいることも安倍晋三首相は知っているだろう。つまり、一方で高齢者の年金を減らしておきながら、もう一方では高齢者の消費行動を誘っている意図が透けてみえるのだ。もちろん、これは私の邪推で、安倍晋三首相にそんな意図はないのかもしれない。しかし、私はこういう政策が嫌いだ。よって、私が自民党に投票することはまずない。

 私の選択肢から自民党が消えたことで、必然的に投票先は他の政党になるわけだが、先述したように、今回の参議院選挙の主な争点はどこの政党も似たり寄ったりだ。だから、私はあまり話題になっていない原発廃炉を絵空事ではなく現実的な観点から提案している民進党に投票することにした。そう決めたのはいいが、今度は山口選挙区には民進党からの候補者が一人もいないことに気づいて、投票先を再検討する羽目になった。山口選挙区からは自民党幸福実現党、そして民進党共産党社民党統一候補として擁立した無所属の候補者がいる。自民党は端から選択肢にない。幸福実現党は党名が意味不明で、そもそもどういう党なのかすら知らない。そこで、党ではなく人物で投票先を選択することに決めた。

 実は、私は四十歳まで選挙に赴いたことがなく、それまで選挙に興味を抱いたこともない。そもそも、町田市や横浜市に住んでいた若い頃に投票用紙が自宅に届いていたのかすら把握していない。これは生来きっての怠惰な性格に起因しているのだろう。だから、今回の参議院選挙から18歳の若い人たちが投票権を得て投票するにあたって、アドバイスできることは何ひとつない。悲しいくらい何もない。それでも、これから政治について勉強していくであろう若い人たちに推薦したい本が一冊ある。それは、カントの『永遠平和のために』という本だ。

 私は政治について、小難しいことはよくわからない。でも、選挙権を18歳で得た若い人たちがもし投票に赴くのならば、かつて、私を含めた団塊ジュニアの大半が何の逡巡もなく目先の高時給な労働、つまり、派遣社員労働に飛びついたような短期的な視野で物事を判断するという失態を繰り返してほしくはない。少し偉そうな言い方になるが、柄谷行人のいう「未来の他者」を見据えて、長期的な視点から物事を判断してほしいと思う。もちろん、自戒を込めて。

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