【散文】ママ、手を繋いで

マサル君のママはいつでもニコニコとマサル君に微笑みかけます。

そして毎晩マサル君が眠りにつくときに、

「欲しいものを言ってごらん」と優しい声でささやきます。

マサル君はなんでも欲しいものをママから買ってもらえるのです。

 

ある日、マサル君はママとデパートへ買い物に行った帰り道、

近所の仲良しのお友達とすれ違いました。

そのお友達はお母さんと手を繋いで歩いていました。

お友達は何も持っていなかったけれど、

とても楽しそうだとマサル君は思いました。

 

マサル君は右手に持っていたゲーム機を左手に持ち変えて、

ママを見上げました。

そして、ママの手をそっと軽くさわりました。

でも、ママはその手をはじき返して先へ先へと歩きます。

ママはいつもと同じように優しく微笑んでいます。

 

マサル君は左手に持っていたゲーム機を地面に置いて立ち止まりました。

なぜだかわからないけれどもマサル君の頬に涙が伝い、

その場にしゃがみこんでしまいました。

 

それに気付いたママが微笑みながら、

マサル、どうしたの?」

マサル君は袖で涙を拭いてママに向かって右手を差し出しました。

でもママはさっきと同じように微笑みながら、

マサル、どうしたの?」

 

マサル君は自分の言いたいことを上手く口に出せません。

ずっと、ずっと、右手を差し出したまま、

いつまでもママを見つめていました。