【詩】黒い通勤者
窓外の空が薄いオレンジ色に変わりはじめる頃、
僕たちは、連なって吊り革をつかむ、黒い通勤者。
一瞬、橋の上に、携帯電話のカメラを空に向けた少女が過ぎり、
黒い通勤者たちと同じように、僕も四角い空を見上げる。
西の果てに沈んでいく途上に、空より濃いオレンジ色のマル。
しばらくすると、電車の轟音とともに、それも過ぎ去っていき、
あの少女はとっくに消えてしまったというのに。
少女のスカートは何色だっただろう、
君も見ただろうか、今このとき、失われてしまった多くのものたちを。
黒い通勤者たちが一斉に街路に溢れ、朝の白い吐息で枯葉が舞う。
イアフォンを外した瞬間、僕の耳は弾み、誰かのお喋り声が、
街路をずんずん歩いていく僕の耳に誰かのお喋り声が。
電柱の陰に隠れるように、タバコを吹かす黒い通勤者、
うつむきながら、腕時計を気にする黒い通勤者。
ビルのエレベーターに滑り込んだ僕たちはすうっと上っていく、
しんとしたエレベーター内で、僕の耳に誰かのお喋り声が囁いて。
君も聴いただろうか、かつて、存在していた多くの声音たちを。