2018-01-01から1年間の記事一覧

【書評】白い孤影 ヨコハマメリー/檀原照和

檀原照和著 嘗て、横浜市中区黄金町に、所謂、「ちょんの間」という違法な風俗街が広がっていた。通りを冷やかすと、真っ昼間であるにも関わらず、下着姿に近い恰好をした多国籍な女性たちが「お兄さんいかが?」と声をかけてくる。私自身は、衛生的な理由か…

【散文】ママ、手を繋いで

マサル君のママはいつでもニコニコとマサル君に微笑みかけます。 そして毎晩マサル君が眠りにつくときに、 「欲しいものを言ってごらん」と優しい声でささやきます。 マサル君はなんでも欲しいものをママから買ってもらえるのです。 ある日、マサル君はママ…

【エッセイ】中年男の淋しさ、エイジズムについて

いつ頃からだろうか。もう随分、長い間、中年男の淋しさということが、繰り返しあらゆる場所で語られている。もちろん、中年男といっても、三十代から六十代くらいの初老まで幅広いのではあるが、ここでは、定年退職した初老に近い六十代に焦点を当ててみよ…

【書評】吉田修一/悪人

この小説を普通に読めば、善と悪との二項対立の結果としての善悪の不在、とでもいったものに帰結してしまうだろう。そのような小説は近代以降既にありふれたものとなっており、読者をそこに駆り立てる技術の巧拙、つまり、アミューズメントとでもいったよう…

【エッセイ】荒井謙さんのこと

死者について書くことは難しい。そして、ある意味、不誠実でもある。なぜなら、彼らは既に死んでいるからだ。つまり、彼らはこの文章を読むこともなく、応答することもない。その一方向性は、ときに彼らへの冒涜となる可能性を孕む。生きている者、死の側で…