【音楽】尾崎豊/永遠の胸

 印象的なギターソロから始まる尾崎豊の「永遠の胸」は、1990年にリリースされた20代の尾崎豊の集大成ともいえる二枚組アルバム『BIRTH』に収められている楽曲である。7分47秒という楽曲の長さもさることながら、その雄大なメロディーラインと、少しの切実さと憂いの入り混じったダイナミックなボーカル、これらが調和されたスケールの大きな一大叙情詩のような楽曲となっている。尾崎豊といえば、10代の間に3枚のアルバムをリリースし、その反抗的な歌詞によって、デビュー時から若者のカリスマ、若者の教祖などと、マスコミに半ば揶揄され、半ば称賛されていたシンガー・ソングライターだが、20代に入ってからの楽曲群はそれほど評価されていない。ここで尾崎豊について語る気はないが、20代の尾崎豊の楽曲の素晴らしさを、少しでも紹介できればと思っている。

 20代に入ってからの尾崎豊の数少ない楽曲群は、その歌詞を丹念に読めば、普通の人間の普通の暮らしを歌った歌が多い。「永遠の胸」という楽曲は、叙情的で雄大ではある。しかし、その歌詞はそれほど多くの言葉が詰まっているわけでもなく、難解さとは程遠い、至ってシンプルな楽曲だ。一人の人間が、生きていく過程で、色々な他人と出会い、愛したり愛されたり、傷ついたり傷つけられたりしながら、それでも幸せを求め、自己の存在の意味を問う。そんな当たり前の20代の青年の葛藤が綴られている。ダイナミックなボーカルに惑わされがちだが、「永遠の胸」という楽曲は、歌詞だけを取り上げると、とてもシンプルなのだ。しかし、力強いボーカルと演奏、アレンジが、壮大な一大叙情詩のような印象を、聴いた後に残す。

 一点だけ、「永遠の胸」の歌詞にふれておきたい。

本当の自分の姿を失いそうなとき 君の中の僕だけがぼやけて見える

 楽曲の前半にこんな歌詞がある。「本当の自分」という言葉は、尾崎豊の代表曲「卒業」にも使われているが、おそらく、これらふたつの楽曲で使われている「本当の自分」とは、「自己が理想とする自己像」という意味合いで使われていると思われる。もし、そうではなく、普通の意味で「本当の自分」という言葉が使われているのなら、それは陳腐だと言わざるをえない。「本当の自分」などないからだ。人間は出会う他人たちや、様々な状況において、複数の自分を使い分けながら生きている。その統合が「その人」なのだから。

 話が少し脱線したが、上記引用歌詞について私見を述べると、何の変哲もない歌詞に思われがちだが、あの歌詞には、人と人との関係性の本質的なものが含まれているのではないかと思う。自己の精神が脆く崩れそうなとき、他者の目に映る自己の像もまた歪んでいる。つまり、自己像とは他者の中に存在しており、他者の中に探す他ない。上記引用歌詞では、自己が「ぼやけて見える」と表現されているが、当たり前のことが、極シンプルに歌われている歌詞だけに、その一例として取り挙げてみた。ちなみに、私は、「一人じゃない」と歌うことなく、逆に、「人間は一人である」ことを歌い続けた尾崎豊が好きだ。 

永遠の胸
作詞/作曲 尾崎豊

 

一人きりの寂しさの意味を 抱きしめて暮らし続ける日々よ
見つかるだろうか 孤独を背負いながら生きていく
心汚れなき証示す道しるべが
色々な人との出会いがあり 心かよわせて戸惑いながら
本当の自分の姿を失いそうなとき 君の中の僕だけがぼやけて見える
ありのままの姿はとてもちっぽけすぎて
心が凍りつくとき 君を また見失ってしまうから

 

人はただ悲しみの意味を 探し出すために生まれてきたというのか
確かめたい 偽りと真実を 裁くものがあるなら 僕は
君の面影を強く抱えて いつしか辿り着くその答えを
心安らかに探し続けていてもいい いつまでも

 

受け止める術のない愛がある 消し去ること出来ぬ傷もある
忘れないように すべての思い出が与えてくれた
心の糧を頼りに生きることを
そこには様々な正義があり 幸せ求めて歩き続けている
欲望が心をもろく崩していきそうだ
人の心の愛を信じていたいけど
人の暮らしの幸せはとても小さすぎて
誰一人 心の掟を破ることなどできないから

 

今はただ幸せの意味を 守り続けるように君を抱きしめていたい
信じたい 偽りなき愛を 与えてくれるものがあるなら
この身も心も捧げよう それが愛 それが欲望
それがすべてを司るものの真実なのだから

 

断崖の絶壁に立つように 夜空を見上げる
今にも吸い込まれていきそうな空に叫んでみるんだ
何処へ行くのか 大地に立ち尽くす
僕は 何故生まれてきたの
生まれたことに意味があり 僕を求めるものがあるなら

 

伝えたい 僕が覚えたすべてを 限りなく幸せを求めてきたすべてを
分け合いたい 生きていくそのすべてを
心に宿るもののその姿を ありのままの僕の姿を
信じてほしい 受け止めてほしい
それが生きていくための愛なら 今 心こめて

 

僕はいつでもここにいるから
涙溢れて何も見えなくても
僕はいつでもここにいるから

永遠の胸

永遠の胸

  • 尾崎 豊
  • ポップ
  • ¥250